2023年10月19日に「科学でわかった「キャンプの驚くべき効能」。細胞レベルで免疫力がアップすることが明らかに」という記事がYahooニュースにあがりました。
メディアというのは言い方次第で伝わり方、捉え方が異なってきます。
正しい知識をもつことが重要で、そのニュースの真意を考えることが大事なのは私がいうまでもないことでしょう。
このニュースをNK細胞の研究もしている私の視点から切り込んでいきたいと思います。
あくまで一人の研究者、一人の医者、一人のアウトドア大好き人間としての意見です。
この記事やキャンプを否定しているわけではありません。
ただ、少し知っていることがあると見え方も少し変わる、という程度のフラットな視点と認識していただけば幸いです。
この報告は2008年の論文である!
この記事は2023年10月19日に書かれていますが、参考にしている論文は2008年です。
この記事を読むとつい最近わかったことなのかな?と捉える方もいると思います。
研究、特に免疫の分野は近年着目されていて、世界中で癌に対する免疫の研究がすすんでいます。
15年前にわかったことなのか、ということがわかれば、ちょっとこの記事に対する印象もかわるかもしれません。
実験をしているのはたったの23人
参考にしている論文をみてみると、都市部と森で過ごした人は12人と11人、あわせて23人です。
これを一般的なことと考えるには、実験を行った人が少ない、といわれてもおかしくはないかもしれません。
NK細胞よりもT細胞の方が重要とされている
NK細胞の役割は大きくわけると2つです。
①癌などの異物がはいってきて初期に働く
②他の免疫細胞(B細胞やヘルパーT細胞)との連携で癌を攻撃する
近年、癌に対する免疫細胞としてT細胞、その中でも攻撃性が最も強いCD8陽性T細胞が重要というのは研究者の常識になっています。
もちろんNK細胞も癌を攻撃するために重要ですが、NK細胞はCD8陽性T細胞よりも癌だけを攻撃する機能は低いとされています。
さらに癌はCD8陽性T細胞やNK細胞から回避する方法をすでに獲得していることも多く、NK細胞が増えても癌を攻撃できるとは限りません。
このような免疫細胞の攻撃から回避した結果、癌は進行していくのです。
9月の森には花粉もおおいのでは?
私はNK細胞の研究もしていますが、癌だけではない異物であればなんでもNK細胞は反応します。
参考にしている論文を読むともう一つ疑問がでてきます。
環境の違いで存在する抗原性の物質が異なるのではないか?
つまり、森には花粉などのNK細胞が反応する可能性がある物質があるのでは?と思ってしまいました。
9月はブタクサやヨモギ、カナムグラなど草の花粉も飛散のピークです。
花粉であれば花粉症がある方にとって必ずしも森で過ごすことはよい影響をあたえるとは限りませんね。
すべての癌によいの?実験に使っているのは血液の癌の細胞だけ
さらに参考している論文を読むと、「森で過ごした人の方がNK細胞が元気になっている」ということを証明する実験につかっているのはK562という白血病(血液の癌)の細胞だけです。
そのため、必ずしもそれ以外の癌で効果があるかは不明です。
記事を読むとあらゆる癌に効果があると認識される方もいらっしゃるかもしれません。
さらに、この細胞は人の体の中とは全く異なったプラスチックと栄養剤の中でも生存して増え続けることができる特殊な細胞です。
このことから、森で過ごした方のNK細胞が癌を攻撃するかもしれない、ということはいえますが、あくまで「可能性」です。
その「可能性」も一人の研究者としては信頼度は低いものと考えます。
でもキャンプは楽しい
様々なことをお話ししましたが、やはり山や森で過ごすことはとても気持ちがいいものです。
これは精神的にも自律神経系にもよいことは揺らがない事実でしょう。
私も大好きで小さいことから山登りを頻繁にしていました。
このように知識がある状態で読むか、全く知識がない状態で読むかでメディアはどのようにも捉えることができます。
もちろん、このブログも例外ではありません。
今日は通りすがりの研究者・医者が一つの記事をみてふと考えたことを書いてみました。
あくまでこのような考え方もあるのだな、と一個人の意見ととらえていただけばと思います。
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