KANさんがメッケル憩室癌で亡くなりました。
「愛は勝つ」はもちろんですが、私が個人的に好きなのはMr.childrenの桜井さんとコラボしたapbankの「and I love you」でした。
ご冥福をお祈り申し上げます。
私は消化器外科専門医(お腹の外科専門)ですが、メッケル憩室は経験があるもののメッケル憩室癌については経験がなく、今回これまで報告されている論文を複数本読んでみました。
KANさんのメッケル憩室癌がコロナワクチンが原因である「ターボ癌」であると言っている方もいらっしゃるようです。「ターボ癌」についてもまとめていますのでよろしければご参照ください。
今回KANさんが亡くなったメッケル憩室癌とはなにか?治療法はどういったものがあるのか?についてまとめてみました。
メッケル憩室・メッケル憩室癌とは?
メッケル憩室とは大腸と小腸が交わるところから約50センチから1メートルの小腸にできることが多く、腸の壁が焼もちが膨れるように外へとび出た袋状のものです。
発生率は約2%とされています。
おおくは無症状ですが、ときおり下血、炎症、腸閉塞を起こすことがあり、検査の結果メッケル憩室がみつかることがあります。
引用 日本小児外科学会 http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/mekkel-keishitu
われわれ外科医はお腹の手術をしたとき、腸に異常がないか確認しますが、その際に偶然みつかることもあり、私もメッケル憩室を切除した経験があります。
しかし、冒頭でも述べましたがメッケル憩室癌の方に出会ったことはありません。
症状があるメッケル憩室に腫瘍(癌や肉腫など)ができるのは3.2%とされています。
本当にめずらしい癌であり、日本ではこれまで約20例の報告があるのみです。
メッケル憩室の位置やメッケル憩室の多くが無症候であることから、メッケル憩室癌の早期発見は困難とされており、発見できたときにはすでに進行していた症例がほとんどです。
先ほど述べたメッケル憩室同様、お腹の手術をしたときにメッケル憩室癌が偶然見つかることが多く、
過去の報告では20例中17例が手術でみつかっています。
つまり、手術の前にメッケル憩室癌と診断されたのは3例、15%しかいません。
どのような検査でみつかる?
KANさんは2022年の秋に腹痛で検査をした結果、メッケル憩室癌と診断されたということですが、それでは一体どのような検査をすれば発見できるのでしょうか。
メッケル憩室は「99mTCシンチグラフィー」と聞き慣れない検査で診断できますが、診断率は50%と高いとはいえず、さらに症状がないと検査することはほぼありません。
メッケル憩室癌は進行すればCT検査でみつけることができます。
近年進歩しているカプセル内視鏡などの小腸内視鏡も一つの方法です。
PET検査は過去の報告では診断できた症例もあれば50%で診断できなかったという報告もあります。
いずれにせよ発生率も低く、進行しないと検査してもみつからない、さらに検査をしてもみつからないこともあります。
診断から亡くなった期間を考えると、KANさんも見つかった時点ですでに進行していたことが予想されます。
メッケル憩室癌の治療は?
メッケル憩室癌の治療は原則手術による切除です。
周りのリンパ節も大腸癌に準じて郭清(リンパ節も一緒にとること)が必要とされています。
しかし、診断された時点で進行しており、手術ができない症例も多いようです。
抗癌剤の治療が必要とされていますが、症例が少ないことから確立した治療法がないのも現状です。
メッケル憩室に膵臓の組織や胃の組織ができることがあり、そこから癌が発生した場合は膵癌あるいは胃癌と同じ抗癌剤の治療を行うこともあります。
最後に
現在2人に1人が癌と診断され、3人に1人が癌で亡くなるとされています。
メッケル憩室癌のような極めて珍しい癌を早くみつけることも重要ですが、いうまでもなくメッケル憩室癌よりも発生頻度が圧倒的に多い胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌等の癌も同様に早期にみつけることが大事です。
癌は早期に発見できれば根治できる可能性が高い病気です。
そのためにも早期かつ定期的な検診をぜひおすすめします。
少しでも皆様の参考になれば幸いです。
引用
異所性膵組織が発生母地と考えられたメッケル憩室癌の1例,日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)52巻8号 Page465-474(2019.08)
腹腔鏡下に診断したMeckel憩室癌の 1 例,日臨外会誌 79( 5 )1032―1037,2018
Meckel憩室癌の1例,日臨外会誌 69(10),2580―2584,2008
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